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東京高等裁判所 昭和42年(ラ)528号 決定 1968年7月10日

抗告人

株式会社新生商会

代理人弁護士

満園勝美

外一名

相手方

藤田千代

外一名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告状には抗告理由の記載がないが、一件記録によれば抗告人のいわんとするところの要旨は、抗告人は昭和四二年八月八日東京地方裁判所に別紙申請書(但し、同申請書に「債権者」とあるのは「抗告人」と、「債務者」とあるのは「相手方」と、また、「申請外」とあるのは「訴外」とそれぞれ読み替える。)記載の申請の理由に基づき、相手方らはその所有にかかる別紙第一目録記載の土地につき抗告人が自動車による囲繞地通行権を有することを認め、その通行を妨害してはならない旨の仮処分を求めたところ、同裁判所は、昭和四二年(ヨ)第八五七二号事件として審理し、同年八月一一日右申請を却下するとの決定は失当であること、前記申請の理由によつて明らかであるので、これを取り消し、さらに相当の裁判を求めるため、本件抗告に及んだ、というにあること、明らかである。

しかし、本件土地(別紙第二目録記載の土地を指す。以下同じ)は、附近一帯の土地とともに、都市計画で商業地域に指定されており、抗告人が現にその上に鉄筋コンクリート造り三階建の建物を築造してこれを自動車部品販売業の事務所兼倉庫として使用することを計画しているとしても、前記申請の理由によれば、本件土地は、もともと、南北に走る国道二一号線と東西に走る二本の公道とによつて囲まれた一区間の中程に位置し、右国道へは、相手方ら所有の前記土地のほか訴外中村増守、同佐藤秋義、同松平保定の各所有地にまたがつて設けられた長さ二六メートル(14.3間)、幅3.6メートル(二間)の細長い帯状の私道によつて通ずる奥まつた土地であり、しかも、(一)五〇番五二号宅地52.89メートル(一六坪)、(二)同番五一号宅地66.11平方メートル(二〇坪)、(三)同番五三号宅地66.11平方メートル(二〇坪)及び(四)同番三四号宅地87.27平方メートル(二六坪四合)の四筆に分かれていて、それぞれ、所有者を異にし、木造建物を建てて使用されてきたのであり、抗告人がそのうちの八割強にあたる右(二)ないし(四)の土地を買い入れたのは最近のことであること、明らかである。したがつて、かような状況にある本件土地はそれ自体として本来その用法において相当の制約を受けるべき関係にあるものであつて、これをあらたに取得したからといつて直ちにその所論のような事務所兼倉庫の敷地として利用することが、この土地の用法に従つた使用であるとは、その現状にてらしてにわかに断定しがたいものといわなければならない。そればかりでなく、囲繞地通行権は、一般公益上土地の利用をまつたからしめるため隣地所有者の犠牲のもとに認められる権利であるから、その権利の内容は、土地使用上必要であつてかつ隣地所有者にとり損害の最も少ない範囲にとどまるべきであるところ、前記国道に通ずる私道を自動車で通行することは、抗告人には建築資材や取引商品の運搬に便利であるこというまでもないが、他方、右私道の幅員は、前叙のように3.63メートル、しかも、両側からはみ出ている建物部分や電柱等によつてその実効幅員が3.16メートルにすぎないという抗告人自認の事実に徴すれば、これを抗告人が自動車で通行することによつて相手方らがこうむる損害の甚大であることはみやすいところであるから、囲繞地通行権の内容が時代の進化にともない変容するものであることを勘案しても、右私道を自動車で通行することが、抗告人所論のごとく、当該囲繞地通行権の内容をなすものとは、にわかに認められない。これを抗告人の欲する如く通行するためには別にその方途を工夫すべきである。なお、抗告人は、右私道の自動車による通行が東京都公安委員会によつて禁止されていない旨種々論述しているけれども、かかる事情は、本件抗告適法の理由とは認められない。

されば、仮処分の必要性の有無につき判断を加わるまでもなく、抗告人の前記申請を却下した原決定は相当であつて、本件抗告はその理由がないものと認め、民事訴訟法第四一四条、第三八四条第一項第九五条第八九条に従い主文のとおり決定する。(浅沼武 上野乙秋 渡部吉隆)

(別紙)仮処分申請書記載の理由《省略》

第一目録・第二目録《省略》

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